多くの歯科医院で、新人をお迎えしたと思います。学卒の歯科衛生士や受付、歯科助手の皆さんは、初めて社会に出るので、不安や期待を抱いているでしょう。せっかく入職した新人が1年も経たずに辞めてしまったというケースは多いと思います。

 人事には「3日、3月、3年」という退職しやすい時期を表す言葉があります。

 「入社3日目」は、期待と不安が入り交じった不安定な心理状況です。想像していた仕事と現実の違いや、怖そうな院長や先輩との人間関係など、社会の「現実」に直面し、「医院の選択を間違えた」という短絡的な感情で退職を考えてしまう人が多い時期なのです。新人歓迎会での人間的なコミュニケーションを通じて、怖そうな院長が、実はやさしい性格のおじさんだった、あるいは怖そうに見えた先輩は、面倒見がよく話を丁寧に聞いてくれる人だった、などの発見ができるのです。

 「入社3月目」は、1年目の7月から8月頃です。研修期間が終わり、実際の業務がスタートする時期です。初めて業務を担当するのでプレッシャーを感じ、ミスも起きがちです。先輩や院長から失敗を正されて、「叱られた」と落ち込んで退職を考えたり、他の医院に就職した友人と情報を交換するなかで、「医院の選択を間違えたが、まだやり直せる」と考えてしまう時期になります。

 最後の「入社3年目」は、一人前となって仕事ができるようになる時期です。先輩達の姿をみて、その医院での自分の将来もある程度予想できるので、このままでは自分が活かせないと不満と不安を感じて、「もう歯科衛生士としてどこの医院でも勤まるはず」と転職を考えがちなのです。

 退職していく方達の理由は想像するしかありませんが「3日、3月、3年」にあてはまるケースが多いと考えられます。そしてそれは、「その医院に退職を思いとどまるだけの魅力がなかった」ということです。給料や通勤時間など労働条件や環境面での不満もあるでしょう。しかし、人間的なコミュニケーションが形成できていないため、「院長や先輩から叱られて怖い」「ここには親身に相談できる人がいない」などと思っているケースも多いのです。

 新人歓迎会は、「医院として新しく入職した歯科医師やスタッフを温かく迎える」というイベントです。一緒に楽しくお酒を飲み、おいしい料理を食べることで、仕事時間では形成できない人間的なコミュニケーションがとれるようにすることが目的です。ところが、長引くコロナ禍で、新人から3年目を迎えるスタッフまでが「仕事だけのつきあい」になっている可能性があるのです。コロナ禍が落ち着いている今のうちに、2年目、3年目までに拡大した、「拡大新人歓迎会」を開催しましょう。まだまだコロナの感染対策で気を緩めるわけにはいきませんが、ワクチン3回接種も終えていると思います。感染対策をきちんとしているレストランや飲食店で、少人数のテーブルに分かれて会食するのであれば問題ないでしょう。

 コロナ禍によって、1年目、2年目、3年目までが、仕事以外のお付き合いができていないという異常な状況にあります。この状態しか知らないスタッフ達はこれが通常だと思っているでしょう。「院内は、仕事のお付き合いだけ」、と思っているかも知れません。歯科医院は10人ほどの人が集まる小さな社会です。気の合う人、やさしい人、頼れる人、色々な先輩達がいるはずです。お互いにわかり合える環境を作るために、ぜひ、「拡大新人歓迎会」を開催していただきたいと思います。

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