緊急事態宣言が解除されても、ワクチン接種が行き渡るまでの間、感染リスクを怖れて受診を見送る患者が多いと考えられます。コロナ禍のなかで、強い自覚症状がなく、生命の危険がないと感じられがちの診療科、例えば耳鼻科や眼科、小児科の検診などで「念のため受診」の減少が続いているようです。歯科も例外ではありません。

継続患者には、口腔ケアのコロナウイルス感染予防効果と重症化予防効果を説明できますが、新患には説明のしようがありません。このため、地域の全ての方に、歯科医療の重要性をアピールし、むし歯や歯周病の患者さんには早めの来院を、健全な口腔の方には予防での口腔ケアに一人でも多く来院していただく必要があります。今回はそのための対策を考えてみましょう。

最近は歯周病が糖尿病や認知症の原因になっていることが色々なメディアでとりあげられるようになりました。前述のように、口腔ケアがむし歯や歯周病の予防だけでなく、コロナなどのウイルス感染症の予防や、重症化防止に有効であることも知られています。しかし、一般の生活者にはいまひとつ伝わっていないようです。

またむし歯については、それこそ「痛くなるまで行かなくても平気」、という状態のようです。しかし、むし歯や歯周病を放置すると死に至る危険があるのです。「むし歯や歯周病が死に至る危険がある疾患である」ということが伝われば、多少は急いで来院する患者が増えると考えられます。これを院内掲示やホームページで紹介してみてはいかがでしょうか。

むし歯や歯周病による死亡リスクは次のとおりです。

1.誤嚥性肺炎:むし歯や歯周病の菌が、睡眠中などに口内から気管に少しずつ入っていきます。免疫力の低下した高齢者の場合は、肺炎を起こして高熱、呼吸困難などの症状で衰弱死するケースも多くみられます。このため在宅歯科での口腔ケアが重要な役割を担っているのです。

2.骨髄炎:むし歯が進行して歯が失活すると、根尖病巣から歯根膜炎を起こし、むし歯菌が顎の骨に感染していきます。炎症が起きると歯茎から膿が出たり出血しますが、さらに進行すると骨髄にむし歯菌が感染して骨髄炎を起こして高熱や嘔吐、全身倦怠などの症状が続き、やがて骨が壊死します。顎関節に近い場合は口が開かなくなり、生涯流動食になることがあります。

3.敗血症:骨髄炎が進行するとむし歯や歯周病菌など口腔内のバイ菌が全身に運ばれて行きます。むし歯や歯周病の治療を行わないと、常にバイ菌が血管に流れ全身を巡り続けることになります。やがて血液が腐敗して敗血症になり、多臓器不全で死亡することがあります。

4.心筋梗塞:むし歯や歯周病を放置したり、残根状態となった不潔な歯牙をそのままにしていると、むし歯菌や歯周病菌が食事の度に血管に圧入され、全身に流れていきます。むし歯菌や歯周病菌が心臓に入ると動脈硬化を進行させたり、心内膜にコロニーを作ったりします。やがて血流が悪くなって狭心症になり、心筋梗塞による突然死の原因となります。

いかがでしょうか。患者さん達が、コロナによる様子見で口腔内の疾患を悪化させることがないように、歯科医療機関としてのアナウンスを続けましょう。

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