新型コロナ感染症に関連して「雇用調整助成金」や「持続化給付金」などの助成金が支給されている。歯科医院では「医療機関・薬局等における感染拡大防止支援事業」として100万円の補助金が受領できる。さらに、雇用関係ではキャリアアップ助成金や、育児休業・介護休業への両立支援助成金なども拡充されている。経済産業省の管轄でも「持続化補助金」「ものづくり補助金」「IT導入補助金」などがある。多くの地方自治体でも独自の補助金を設定している。歯科医院でも積極的にこれらの補助金や助成金を活用したいところである。しかし、最近になり不正受給が問題になっている。「持続化給付金」を不正に受け取ったり、それを指南したりして逮捕された人が全国で30人以上に上っているほか、雇用関係の助成金も不正受給の摘発が続いている。

 雇用保険関係の助成金では、キャリアアップ助成金に関する受給詐欺がよく耳に入ってくる。例えば「正社員化コース」の助成金は、就業規則に社員登用制度を制定し、パートや契約社員などを正社員に転換し、昇給させれば受給できる。しかし、通常の歯科医院は10人未満のところが多く、歯科衛生士やスタッフの大部分が正社員で該当者が2~3人のケースが多い。補助金や助成金は人数に応じて金額が決まるものが多く、代行業者に入る手数料はその3割程度なので、微々たる金額になってしまう。そこで、人数を水増ししようとするケースがあるのだ。業者にとっては申請手間が変わらずに簡単に収入を増やせるからである。

 必要書類は業者が作成するが、社員の印鑑が必要になる書類がある。スタッフにも色々な人がおり、疑問を持ったスタッフが当局に「どうしてこのような書類が必要か」と質問すると不正請求が露見する可能性がでてくる。「こちらで、三文判で作っておく」という業者もあるようだがこれは有印私文書偽造の犯罪である。

 助成金の不正受給には重いペナルティがある。刑事上のペナルティでは、不正受給は詐欺罪が成立し10年以下の懲役となる。医道審議会によるペナルティもある。医師、歯科医師の刑事事件は有罪判決が確定すると全件が厚生労働省に通知され、医道審議会の対象になり医業停止や免許取消しになる可能性がある。行政上のペナルティでは、不正受給が発覚すると助成金が不支給になるだけでなく、以後5年間は雇用関係の助成金が申請できなくなるほか、医院名や社名が公表され社会的な信用も失墜する。助成金は返還請求を受け、受給日の翌日から返還を終了する日までの年3%の延滞金と返還額の20%の違約金が徴収される。

 歯科医院から着手金を詐取する助成金詐欺もある。例えば「業務改善助成金」の請求代行などに関して、着手金として歯科医院に10万円を支払わせる「着手金詐欺」である。これは現金自動精算機の導入による経営効率の向上などが対象になる助成金で、歯科医院が騙されやすい。あるケースでは京都のNPOを名乗っていたが振り込み先は個人名義であった。パンフレットには「助成金の受給を100%保証するものではありません」と書かれていた。メールで「期限が迫っているのでお急ぎください」と手続きを煽ってきたが、払い込んでから全く連絡がなくなっても、「やはりだめだったか」とあきらめる医院が多いのではないだろうか。この業者はメールで多くの歯科医院に送りつけていたようで、被害にあった歯科医院も多いだろう。

 補助金や助成金の受給詐欺にあわないためのポイントは、「補助金や助成金をもらいませんか」という業者の営業に耳を貸さないことである。そして、自医院で必要な機器や研修、パートタイマーの社員登用などの福利厚生の充実や社員登用制度などを新設したいときに、使える補助金はないかと顧問先の会計事務所など信頼できる関係先に相談することが大切である。くれぐれも不用意に助成金詐欺に加担させられたり、巻き込まれたりすることなく、上手に活用していただきたい。

以上