事業承継を考える時期は2回ある。1回目は30歳代後半で、開業するか親の医院を継ぐか勤務医を続けるかを考えなければならない時期、2回目は50歳代になって自医院をどうするかを考えなければならなくなる時期の2回である。今回は、親子継承を円滑に行なう5つのポイントを思いつくまま紹介しよう。

1.親に引退後も週に2回程度なじみの患者さんの診療を続けさせる:
成功事例に共通するのは、親が引退後も週に2回程度なじみの患者の診療をしていることである。ご家庭では奥様もご主人が出かけている間は息抜きができ、年金生活の足しになる収入が得られることで夫婦円満が続く。

2.年金生活でも続けられる趣味を持たせる:
親の世代は趣味など持てず歯科診療に明け暮れた方が多い。しかし、趣味がなければ引退後にすることがなく時間を持てあまし認知症への片道切符になる。趣味といっても年金で続けられるものにしたい。
ゴルフは仲間もプレー回数も減るとかえって孤独に陥る。釣りでも写真でも、絵画でも旅行でも、短歌や俳句、料理や蕎麦打ちでも、あまりお金を掛けずに、仲間と、ときどきは老夫婦で一緒に時間を過ごせる趣味がよいということになる。

3.早い段階で事業承継の可能性や相続を話し合う:
親子継承は事業継承と財産継承という二つの側面を持つ。このため、相続や親の生活資金の確保を含めた準備を早めに開始する必要がある。
そのために、親の医院の経営状態や患者数の状況、借入れ残額と医業利益、開業している地域の歯科医院の経営状況などを分析して、親の医院が事業承継に値するのかどうか、自分が承継するとすればどんな経営改善対策が必要になるのかを確認し、経営コンサルタントや税理士などの専門家を入れて話し合いを開始する必要がある。
そして、親の医院を承継するのか、自力で開業するか、今の勤務先である程度残って時期を待つのかなどの判断ができるようにしておく必要がある。

4.ご子息の将来を含めた相続対策を考えておく:
50歳代の先生はご自分の承継を考える必要がある。ご子息やご息女を歯科医師にしたいのであれば「30歳未満の子供か孫に対して教育資金なら1500万円まで生前贈与しても非課税」という特例もあり、学費をどの程度親が援助できるかどうかも確認しておく必要がある。
土地建物の相続もからむため早めに信頼できる税理士に相談して準備を開始する必要がある。

5.将来の廃業に備えて計画的に準備をしておく:
30歳代の先生は親の医院の廃業を、50歳代の先生はご自分の歯科医院の廃業の準備ということになる。それは思わぬ資金が必要になることがあるからである。
永年勤務してくれた受付や歯科衛生士への退職金、チェアやレントゲンなど医療機器の廃棄費用、医院をスケルトンにするための解体処分費などが必要になる。例えば15年勤務してくれたスタッフを解雇する場合は、1人150万円ぐらいは必要で、4人いれば600万円になる。
チェアやレントゲンの処分費が100万円、医院の解体費用が約300万円かかると、合計で約1,000万円にもなる。老後の生活資金と合わせて準備が必要である。貯蓄だけでなく「小規模企業共済制度」への加入や年金掛け金保険に加入しておくなどの対策が必要である。

歯科医師が引退して余裕のある老後を過ごすためには、少なくとも5千万円の貯蓄が必要になると考えられる。無駄な支出や税金を払ったり、詐欺にあったり、いつの間にか手遅れになって慌てるなどして後悔しないために、早めに事業承継対策を検討しておいていただきたい。
特に、親からの事業承継を考える30歳代の先生は早めに素直に話し合っていただきたい。
また50歳を過ぎたら、引退と老後を考え始めていただきたい。

以上