コンサルタントの視点から:「アライナー矯正の採算性と現状を考える」
1.はじめに
昨年10月に医療法人社団友伸會が37億円の負債を抱えて民事再生法の適用を申請した。東京プラス歯科矯正歯科の名称で全国の主要都市に展開し、29医院で年収入高約86億3300万円の日本最大級の歯科医療法人に成長していた。
2.トラブルも増加している
背景に、マスコミがキレイライン矯正についての訴訟やトラブルの記事をとりあげていたことも要因として推察される。図表は、日本臨床矯正歯科医会が、2004年から公式ホームページ内に開設している「アライナーを利用した治療によるトラブルの相談件数の推移」である。2019年には21件だったのが、2021年には83件に急増している。当然ながら、症例が多いとトラブルも多くなる。
3.アライナー矯正の採算性を考える
アライナー矯正には技工料がかかる。キレイライン矯正は症例によってアライナーの枚数が違い、枚数で価格が違ってくる。WEBサイトでは、初回2万円(税込22,000円)、2回目以降 5万円(税込55,000円)で、4回コース17.6万円(税込)、7回コース、31.9万円(税込)、10回コース46.2万円(税込)となっており、症例によって総額は20万円~70万円とばらついている。技工料は推測になるが、仮に他のアライナー矯正と同水準の約30%とすれば、2回目以降の5万円のうち1万5千円が技工料である。勤務医に技工料控除後の6割を支払うと2万1千円で、医院に1万4千円、28%が残る。しかし、広告費が問題である。広域的に集患するには少なくとも1医院について年間2000万円程度のWeb広告費をかける必要があるだろう。矯正の初診患者数が年間200人なら毎月16.7人がスタートする。広告費は1人10万円である。医院の取り分は7回コースで毎回5万円としても、1万4千円×7=9万8千円。広告費だけで粗利益が吹き飛んでしまう。
つまり、広域的にアライナー矯正の集患をめざして、駅前での高額の家賃と広告費を負担するというような経営形態は、採算性が厳しいとみられるのだ。
5.まとめ
アライナー矯正で成功するための経営の方向性を考えてみよう。
- 価格競争は避ける:低価格を売り物したビジネスモデルは簡単に対抗値下げを受けるからである。
- 過度な広告宣伝での集患は避ける。広域的に集患するには高額の広告費が必要である。広告で患者が増えれば歯科医師や歯科衛生士を高額の報酬で集める必要があり、集患と広告と人件費のイタチごっこに陥る。
- 自医院を選んでいただける差別化戦略を強化する:例えばインビザラインコンプリヘンシブはどこも同じ値段である。価格に差がなければ通いやすさや信頼感で医院を選ぶだろう。医師やスタッフの接遇や気配り、待合室の過ごしやすさなど、他院を差別化する小さな差を積み重ねることが強みになっていく。
- 経営のバランスを考える:安定的に経営するには、いたずらに拡大を考えず、歯科医師、歯科衛生士数と患者数、適度な広告宣伝費というバランスが大切である。
以上