ここ数年、女性歯科医師の増加が顕著になっておりこの傾向は今後も続くと予想される。女性歯科医師は29歳以下では46.4%とほぼ半数を占めており、歯学部入学者の女性比率も上昇し、女子学生のほうが多数派となった私立大学歯学部も多い。

 女性歯科医師増加の第1の要因は、女性の歯科医師国家試験受験者数の増加である。第110回の1097人が、第115回では1342人と22.3%増加している。第2の要因は、女性のほうが国家試験の合格率が高いことである。女性の70%前後に対して、男性は60%前後と10ポイントの差がある。第3の要因は、国家試験の合格率を高めたい私立大学が女子学生を増やそうとする傾向である。

 女性歯科医師の増加を受けて勤務環境を整える必要性が高まっている。歯科医師は104,118人のうち91,789人、88.2%が診療所に勤務している。その歯科診療所はユニット台数4台以下の小規模医院が71.2%を占めており、女性歯科医師が出産や育児をするための環境が充分に整っていないのが現実である。日本歯科医学会の「歯科医師等の働き方改革に関する答申書」によれば、歯科診療所勤務の男性歯科医師の週平均労働時間は50代までの全ての年齢層で一週40時間を上回っているのに対し、女性歯科医師の週平均労働時間は男性より短く、30代、40代、50代は一週40時間を下回っている。これは、産休や育児による影響があるものと推測される。また、未就学児の育児中の働き方では、男性歯科医師は80%程度が「子育て前と変化なし」としているのに対し、女性歯科医師は20%強が休職・離職をしている。非常勤では26.9%に達しており未就学児の育児が大きな影響を与えていることがわかる。

 女性歯科医師の勤務環境を整えるという意味では育児支援が最重要と考えられる。しかし、小規模な歯科診療所で育児支援を実施することは現実的に難しい。そこで次のような対策が考えられる。

①1日の勤務時間の短縮:女性歯科医師は午後5時までの短時間勤務として、午後5時から7時までは診療予約を絞り込み、歯科衛生士による予防処置で予約を埋めるという対処である。簡単であるが、問題は治療予約が何カ月も先になる時間帯ができるとみられることである。

②始業時間を早め、終業は午後6時とする:午後6時終業であれば午後5時に女性歯科医師を退出させても勤務医が不足する時間を1時間だけにでき、影響を最小限にすることができる。

③週休を増やす:週休3日あるいは週休4日とする。勤務する日は保育園の延長保育料を医院が負担してラストまで診療できるようにする方法である。ただし、延長保育を実施している認可保育園に子どもを預けられる場合に限られる。

④ベビーシッターを依頼して院内保育を行う:医局などで子供を預かって歯科医師がラストまで診療できる体制を整える方法である。ただし、院内で託児可能なスペースが必要である。

 歯科医師の採用難のなかで、今後はますます女性歯科医師の採用が重要になると考えられる。産休や育児を含めて女性歯科医師が働きやすい勤務環境を整備しておかなければ、せっかく採用できても永く勤務できない可能性がある。また、今後の歯科医院経営はSPTやP重防などの定期予防管理型の経営方向にシフトしていくと考えられ歯科衛生士の確保が重要になっている。求人倍率が20倍を超え採用は困難であるが、前掲の対策を歯科衛生士にも適用すれば彼らにとっても大きな魅力になると考えられる。

 今後ますます、女性勤務医の採用にも歯科衛生士の採用にも、女性が働きやすい医院づくりが重要になると考えられる。自医院でとりうる対策を計画的に取り入れていく必要があるだろう。

以上