患者さんや家族からの暴言、暴力、セクハラなどにあったことはありますか?外来でも訪問歯科でも、約半数の歯科医師やスタッフが経験しているというデータがあります。しかし、応召義務もあり正当な理由がなければ診療を放棄することはできません。また、どこからが暴言か暴力かセクハラなのかの境界が判断できず、何もできないというケースも多いようです。

 暴力や暴言を伴う悪質なクレームは、本人からでも家族からでも、要求は「金銭要求(お金を払いたくない)」または、「特別扱い(待遇)」です。そして、理不尽な要求や暴言、暴力がある場合はすぐに対処する必要があります。あいまいな態度をとると、相手をエスカレートさせ、事態を悪くする方向にしかなりません。場合によっては訪問診療の中止を伝える必要があります。

 暴言や暴力、セクハラなどには「割れ窓効果」という心理的傾向があることが知られています。これは、犯罪傾向のある人物が、警告されたり罰せられたりしないと感じた場合に、暴力や犯罪行為を次第にエスカレートしていくというものです。軽微な段階での毅然とした対処が必要なのです。「認知症だから仕方ない」「厳しい対応は気の毒だ」などと放置していると次第にエスカレートしていきます。ささいなことでも上司に報告して早期に対策を講じる必要があります。

・歯科医師や歯科衛生士、スタッフに次の訪問診療方針を知らせておきましょう。

1. 歯科医師やスタッフが患者やその家族から暴言、暴力、セクハラを受けた場合は、訪問診療を打ち切り、状況によっては警察に通報します。「この程度なら我慢できる」など考えずに、すぐに状況をインシデント報告の書式で報告しましょう。

2. 歯科医師やスタッフが、本人や家族からの暴言や暴力の危険を感じた場合は、すぐにその場から逃げてください。器具などはそのまま放置して構いません。事態が落ち着いてから複数人で訪問するなど安全な方法での回収を検討しましょう。

3. 避難する際に置いてきた器具などが患者さんや家族に損壊された場合は、器物損壊で警察に連絡するとともに、損害賠償を請求します。日頃から持参した器具のリストを記録しておいてください。また、危険を感じた場合は器具などの写真を撮影しておきましょう。

4. 歯科医師やスタッフが、患者本人や家族から暴力等を受けて怪我をした場合は、すぐに医療機関を受診してください。診断書をもらい労災の手続きをとってください。医院は状況を聴取し、傷害、器具の損壊などの写真、経過の記録を作成して警察に相談します。

5. 前項の場合、弁護士と損害賠償請求の手続きを行い、傷害罪で告訴するかどうか検討します。さらに、同様の被害を防止するため歯科医師会と保健所に報告します。 

 約半数の訪問看護師が暴力や暴言、セクハラの被害にあっており、仕事を辞めたいと思った人も多いというデータがあります。訪問歯科でも同じような傾向にあると考えられます。医院としては歯科医師やスタッフを守ることが第一優先です。患者さん本人や家族に、暴言や暴力、度重なる長時間のクレーム、悪意による診療報酬不払などの兆候がある場合は、早期に医院に相談しましょう。医院は状況によっては訪問診療を中止します。安心して働ける職場にしていくために、これまでの体験や対応を話し合って共有しておきましょう。

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