矯正治療を受ける患者さんが増えています。ワイヤー矯正もインビザラインなどライナー矯正も増えています。ところが、問題は矯正治療中のカリエスリスクです。

 実は、矯正歯科治療中にカリエスになった事例で、保健指導上の義務違反として歯科医院側が敗訴した判例があります。平成15年7月10日に東京地裁で出されています。歯列矯正の際に、う蝕予防のためのブラッシング指導を怠ったとして歯科医師に損害賠償請求訴訟が提訴されたものです。損害賠償請求額は410万5千円で、判決での請求認容額は55万円(慰謝料50万円、弁護士費用5万円)でした。この裁判の争点は、歯科医師や歯科衛生士が、歯列矯正中は十分にブラッシングを行なうなど、口腔内の衛生環境を良好に管理するよう、患者に指導すべき義務に違反したかどうかでした。

 判決によれば、患者の女性は平成10年から矯正治療を開始して、平成14年に器具を外したのですが、ブラケット装着部位の前歯4本がむし歯になっていたのです。そして裁判所は、歯科医師に、固定器具の周辺を丹念に磨くように十分に指導していなかった診療契約上の義務違反があったと認定したのです。

 インビザラインでもワイヤー矯正でも、装置を装着している間はカリエスリスクが高くなります。特にワイヤー矯正ではブラケット周りには歯ブラシが届きにくくなるため特に丁寧に磨く必要があります。どの医院でも最初のコンサルの段階に口頭で説明していると思いますが、裁判になると証拠がなければ説明していないのと同じになります。説明用の文書を作っておき、歯科医師、歯科衛生士が繰返し説明して、署名をいただいておきましょう。次のような内容をお伝えします。

1.矯正治療中はむし歯になるリスクが高まります。

ワイヤー矯正の場合は、金属製のブラケットを歯に貼りつけてワイヤーをかけますので、歯磨きの際に歯ブラシが歯面にあたりにくくなります。不十分なブラッシングのまま着用すると、むし歯になる可能性が否定できません。

2.必ず時間どおりに来院して、歯科衛生士による口腔内清掃を受けてください。

矯正で毎月1回ご来院いただいた際には歯科衛生士による口腔内清掃を実施させていただいております。ただし、遅刻をされますと次の患者さまのお時間までの診療となり、口腔内清掃のお時間を取れなくなりますのでご注意ください。

3.矯正治療中は甘い飲み物やおやつを避けてください。

矯正治療中は、砂糖の入った甘い飲み物や酸と砂糖の入った清涼飲料水(オレンジジュース、コーラ、ポカリスエットなど)の飲用をできるだけ避けてください。間食もできるだけ避けて、口腔内に飲み物や食べ物がない時間をできるだけ長くとるようにしてください。

4.丁寧な歯みがきを励行してください。

きちんとした歯みがき=セルフケアと、歯科衛生士による口腔内清掃=プロフェッショナルケアによって、むし歯になるリスクを低下させましょう。

以上