新型コロナウイルスは、感染した患者のくしゃみや咳、あるいは歯科治療中に飛び散る飛沫に乗って空中に放出されます。そのうち大きなものはすぐに落下してしまい、微小なエアロゾルになったものが空中に長く漂うことが知られています。このエアロゾルを除去する対策として換気をしている医院が多いと思います。しかし、これから盛夏を迎えるわけで、冷房効果を大きく損なわない対策を考える必要があります。

換気には空気の流れを作ることが重要です。窓を大きく開けても空気の流れができなければ換気できません。空気の流れができるように出口と入り口を工夫する必要があります。いくつかのヒントをご紹介しましょう。

①部屋の対角線の窓をあける:部屋の空気に流れを作るには、上図のように部屋の対角線上の窓を2カ所開けることが有効です。また、窓は全開にせず、空気の出口は大きく、入り口は狭くするほうが強い空気の流れを作り出すことができます。逆に、下図のように全ての窓を大きく開け放っても、強い換気効果は得られません。 このため、換気を行なう際は、どの窓を開放するかを決めておく必要があります。

②高低差のある窓を開ける:冷房中でも冷たい空気は下のほうに滞留し、暖かい空気は天井近くに滞留します。ベランダの窓のように上下に大きく開口した窓を15㎝ぐらい開けておくと、上部から暖かい空気が排出され、下部から外気が入り、部屋のなかに縦の空気の流れを作って換気することができます 。

③窓が一つしかない場合:窓が一つしかない場合は、換気扇を使って強制的に排気します。開放した窓から外気が入り、空気の流れを作ることができます。このときも、窓は大きく開放しないほうが空気の流れができます。

④風が通りにくい場所の対策:間仕切りで仕切られた診察室など風が通りにくい場所は、サーキュレーターなどを使って強制的に空気の流れを作ります。壁着けのデザイン性の高い機種も販売されています。

⑤窓が使えない場合は機械換気:2台の換気扇を使って強制的に外気を導入し、また部屋から排出します。このとき、常時換気にすると冷房効果が損なわれるので、定期的に換気する必要があります。実は、わずか5分から10分間の自然換気で部屋の空気が入れ替わるので、30分の治療時間が終わって患者さんが退出し、次の患者さんを導入するタイミングで、30分ごとに5分間程度、窓をあけて換気すれば十分です。

⑥冷房中の工夫:エアコンの消費電力が多くなるのは電源を入れた時なので、使用中のエアコンは電源を切らずに、つけたままの状態で窓を開けます。また、外気が入ると室温が上がって消費電力が増えるので、換気する前に温度設定を高くすると省エネになります。口腔外バキュームを使用した場合は、90%のエアロゾルが除去できますので、換気の回数を減らすことができます。

⑦24時間換気システムがある場合:戸建ての歯科医院では、24時間換気システムが備えられている場合があります。24時間換気システムは室内の空気を2時間で1回入れ替えられる設計になっています。空気の流れを妨げるような場所に収納や壁を設置しないように留意する必要があります。ただし、歯科医院で、新型コロナウイルス感染対策として院内のエアロゾルを除去するには強い風の流れが必要です。そのため、24時間換気に頼らず、定期的に窓を開ける自然換気を併用することをお勧めします。                  

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