新型コロナウイルス感染症による風評被害で患者が急減し、深刻な打撃を受けた歯科医院が多い。緊急事態宣言も解除され、今後は次第に回復していくと期待されるが、売上減少による資金難のなかで昇給や夏期賞与の時期を迎え、難しい経営判断が必要になっている。今月は復活のためのポイントを考えたい。

 第1のポイントは資金の確保である。家賃や賃金などの固定費の支出や借入れの返済は、売上がゼロになっても出て行く。もし手元資金がなくなれば「倒産」することになる。つまり、第一優先は資金の確保である。コロナウイルス対策で経営が悪化した中小企業向けに、経済産業省から資金繰り支援対策がいくつも設定されている。これらを活用してできるだけ多くの資金を確保しておくことが必要である。無利子無担保で5年据え置きなど、有利な条件で借入れができる機会であり、余裕をもって借入れしていただきたい。それは、少なめに借入れをして売上が予定どおり回復しなかった場合、追加融資を依頼しても簡単には貸してくれないと考えられるからだ。

 借入れ金額の目安は、毎月の損益計算書の一般管理費(給料賞与、家賃、その他の経費)の6ヶ月分である。これだけ確保できれば、1年間売上が半分の状態が続いても持ちこたえることができる。予想より早く資金に余裕がでてきた場合は、金利の高い借入れから順に繰り上げ返済をしていけばよい。 

 第2のポイントはスタッフを守ることである。歯科衛生士が担当患者制でSPTや歯周病重症化予防治療などの定期的な口腔ケアを行なうと、歯科衛生士1人あたり月に10万点以上の売上を上げることができる。技工料や材料費が発生せず、人件費は40万円程度なので、約60万円の人件費控除の利益が残る。このため、歯科衛生士を確保して早期に口腔ケアの予約を回復させることが重要である。当然ながら、初診患者を診療し、歯科衛生士に指示をする歯科医師が必要であり、患者応対と予約取りをする受付も、診療介助をする歯科助手も欠かせない。非常勤スタッフをいったん退職させ、歯科需要が回復した時点で採用しようとしても、そのときには採用難に陥っているだろう。経営の早期回復を目指すために、今いるスタッフ達を確保しておく必要があるのだ。

 とはいえ、ここしばらくは予約が埋まらない日が続くだろう。その間はスタッフを休業させていただきたい。平均賃金の6割以上の休業手当を支払って、雇用調整助成金の受給を申請すれば、最高90%、1日あたり8,330円が支給される。受給について社会保険労務士に相談していただきたい。

 第3のポイントは、患者さんに来院を促すことである。う蝕や歯周病の患者は、放置していてもいつかは来院してくれる。いわば需要の先送りである。しかし、定期予防の患者は違う。「歯科医院は感染が怖いから」などの理由で来院しなくなると、それが習慣になってしまう可能性があり、来院を促すための対策を必要としている。

 6月4日は「むし歯予防デー」。そして、この一週間は「歯と口の健康週間」である。例年はいろいろな行事が催され、マスコミでも歯みがきや口腔ケアの重要性が繰り返されるが、今年はコロナ一色で国民に浸透しないと予想される。このため、歯科医院独自でキャンペーンを企画していただきたい。ターゲットは、4月、5月に予防の予約をキャンセルした患者たちである。2ヶ月も経過しており、そろそろ口腔内が気になっている頃である。また、お子さんを持つお母さんたちも、子どものむし歯が気になっている頃と考えられる。これらの患者をアポ帳からリストアップして来院を呼びかけ、まず、早期に予防の患者数を元に戻すことをめざしていただきたい。

 新型コロナウイルス感染症にともなう患者数の急減は一過性の事態である。長期化するといっても数ヶ月で次第に回復してくるとみられる。いまは、医師、スタッフが一丸となって、特に減少が激しい定期予防の患者に来院を呼びかけるなど、医院経営を一刻も早く元に戻すための対策を講じていただきたい。

以上