ある歯科医院で、歯科衛生士さんが歯ブラシの販売について話し合っていました。

その医院では、患者さんに歯ブラシを使うとき、安価な医院価格1本100円のものを使って、それをお試しで差し上げていました。そして、患者さんにはお勧めのメーカーの良い歯ブラシ、医院価格1セット500円のものを買っていただくようにお勧めしていました。ところが、患者さんは受付でお試しで使った1本100円のものを買って帰るのです。何とかよい歯ブラシを使って欲しいと考えて院内ミーティングを開きました。さて、どうなったでしょうか。

どの医院でも、歯ブラシ、歯間ブラシ、フロス、洗口剤、義歯ケース、義歯洗浄剤、音波歯ブラシ、口臭防止剤、その他色々な歯科衛生用品を販売していると思います。ドラッグストアで安く売っているのに、患者さんはどうして歯科医院で歯科衛生用品を買ってくれるのでしょうか。

一つは、歯科衛生士や受付スタッフが適切なものを選んでくれるからです。

例えば、歯ブラシは歯科衛生士が固さや使いかたを説明して選んでくれます。つまり、「医療相談のソフトをつけて医療器具を販売している」わけです。歯ブラシは硬さ軟らかさはまちまちで、メーカーによってブラシの形状も違います。不適切なものを購入してしまった場合、歯肉を傷めることもあります。歯科衛生士が、自分のお口の状態にあった歯ブラシを勧めてくれることが、患者さんにとって大きなメリットなのです。

二つ目は、その場ですぐに購入できるからです。歯科医院で衛生士に勧められた歯ブラシを教えてもらっても、マツキヨまで買いに行くのは面倒です。メモに書いてもらっても売り場には沢山の種類がありすぎて迷ってしまいます。その点、歯科医院で買えれば手間が省けます。

歯科衛生用品の販売は、歯科にもメリットがあります。一つは、歯科衛生用品が患者さんに繰り返し来院してもらうための動機付けになることです。二つめは、医院の利益になることです。歯科衛生用品は少額ですが収益に貢献します。保険診療では多くの利益が期待できません。また、歯科医院では歯科衛生用品が売れようと売れまいと、受付の人件費や家賃などの固定費は変わらずにかかります。そのため、少額でも利益が増えるとありがたいのです。

さて、冒頭の医院ではどんな結論になったでしょうか。

話し合いの結果、この医院では適切な歯ブラシを患者さんに選んで買っていただくために、お勧めする良いメーカーのものを患者さんのお試しで使い、それを見本に差し上げることになりました。そして、歯科衛生士からお帰りの際に8本入りセットを買っていただくようにお勧めすることにしたのです。8本買っていただければ、お試しの1本分は利益のなかで賄えるからです。

歯科衛生用品を販売するために大切なのが、説明と提案方法の工夫です。患者さんは、一度でも自分が使ったものと同じものを買うほうが安心感があります。ですから、その患者さんにあった「よいもの」をお試しに使って、セットで買っていただくという方法が有効なのです。

歯科衛生用品を売ることは、まず患者さんのためになり、次に医院のためになります。それには、歯科衛生士だけでなく受付の協力も必要になります。みんなで話し合って工夫してみましょう。

以上