「予防歯科」をアピールする歯科医院が増えている。歯牙は一度削るとそこから次第に悪化し、何度か再治療を重ねて最終的には抜歯に至るリスクがでてくる。つまり、口腔内の健康を維持するためには、どんなによい歯科治療よりも予防のほうが重要ということができる。さらに、経営的にも患者さんが定期的に受診してくれることは、定期的に診療報酬が得られるほか、いつかは再発する可能性があるため経営的にプラスになる。

 このため多くの歯科医院が定期検診を呼びかけてきた。P病名やG病名をつけて、EPP、染め出し、TBI、スケーリングを実施して、3ヶ月~4ヶ月ごとに初診を起こしてきた医院が多いと推察される。ところが、この算定に対して支払基金から警告文書を受けるケースが増えているようだ。保険治療では、診査、診断、処置、再評価で終了というプロセスが必要で、最低でも3度の来院が必要になるが、1回で上下顎のスケーリングで終了したり、2回にわけたりしても最後の処置の再評価結果がない。このため本来は再診で診る必要があるが、なか3ヶ月おいて初診算定していることが6ヶ月ごとの縦覧点検で捕捉されるからだ。

歯周治療は日本歯学会の「歯周病の診断と治療に関する指針」に従う必要がある。ネットで閲覧できるので是非一度読んでいただきたい。問題は、この指針に沿った保険算定や診療の順序を守らないだけでなく、医療機関としてとんでもない歯科医院があることである。例えば、歯科助手にスケーリングをさせていたり、SRPの保険算定はするが患者が痛がるなどの理由で実施せずTBIと縁上のスケーリングだけにとどめたりする歯科医院がある。当然ながら歯周病の進行を止められない。また、歯科衛生士1人月間20万点のノルマを与え、SPTⅡを15分~30分で回させる歯科医院もあるようだ。そして問題は、このような「偽の予防歯科」による健康被害が広がっていると考えられることである。多くの患者さんが、不適当な歯科医療を受けていることに気付かないまま長期間通院を続け、その結果口腔崩壊に近い状態に追いやられている可能性があるのだ。

 予防歯科は厚生労働省の地域包括ケアシステムに向けた政策の一環である。平成28年改定で「重症化予防」の方針が明記された。そして、かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所の施設基準が設けられ、SPTⅠ、SPTⅡが設けられた。さらに、周術期の口腔機能管理も重視された。これはがんや臓器移植などの大きな手術の前後に口腔ケアを行なうことで病院での平均在院日数が短縮できたためで、予防的な歯科医療が医療費増大を防ぐ有力な対策になると期待されているわけである。

経営の視点から予防歯科の利益率をみてみよう。この表は、レセプト1枚あたりの売上を、歯科衛生士による予防と勤務医による診療で比較したものである。歯科衛生士の予防処置の場合は、SPTでも3回リコールの保険診療でも約1,000点だろう。これに対して、治療の場合はレセプト1枚あたり約1,200点程度になる。勤務医の時給を4,500円、歯科助手の人件費を2,000円、技工料を1,600円、材料代を600円とすると、営業利益は3,300円。これに対して予防では歯科衛生士の人件費しかかからないので、7,500円残る。つまり倍以上の営業利益になるわけである。  予防歯科は正しく実施されると、患者にとってはう蝕や歯周病の予防だけでなく、糖尿病など重大な全身疾患の予防につながるなど大きな利益になる。歯科医院にとっても、利益率が高く歯科医師が自分で実施しなくてもよいため経営効率が向上する。しかも国の方針にも沿っているのだ。ぜひ、正しい予防歯科に積極的に取り組んでいただきたいと願う。