■はじめに


開業をめざしている若手歯科医師は多い。しかし、環境変化が厳しくなり5~6年前とは状況が異なっている。開業で成功するには周到な準備と立地選定が必要である。
また、開業だけが人生の成功ではない。歯科医師人生を成功させるため、慎重に検討して準備を進めていただきたい。


■開業後の生活費を予測しておく必要がある 


新規開業をめざす場合は、開業後の売上と利益で個人医院の院長の所得がどうなるのかを考えておく必要がある。
十分な自己資金を確保しなければ、返済に追われて成功は難しくなる。今の開業は、数千万円から1億円程度の費用がかかる。工事費も資材も高騰しており、5~6年前の1.4倍~1.5倍かかると考えておく必要がある。自己資金が5百万円しかないというケースも多いが、最低でも1千万円は確保しておく必要がある。


開業に7千万円をかけるケースで試算しよう。自己資金1千万円、6千万円を銀行から借入れ、合計7千万円で開業し、建物3千万円を15年返済、設備2千万円を7年返済、運転資金1千万円を5年返済、利率1.5%で元金均等払としたケースである。この試算をもとに返済額や開業後の生活費がどうなるかをみていこう。


■開業2年目から重たい返済が始まる


元金返済額が、建物200万円、設備285万7千円、運転資金200万円の合計685万7千円、金利が79万7千円で合計年間765万4千円/月額約64万円になる。
さらに、医院経営には次の費用がかかる。(ユニット3台、受付助手1人、歯科衛生士1人の最小限の人数で開業した場合とし、給与はDH30万、DA25万=合計55万として、賞与を含めて年間14か月分の計算とする。) 

①給与:年間770万/月額64.2万 ②医薬品費:年間30万/月額2.5万 ③歯科材料費:年間300万/月額25.0万
④歯科技工料:年間300万/月額25.0万 ⑤その他(家賃を含む):年間720万/月額60.0万。

年間合計2,120万/月額176.7万である。借入利息と返済額も合計すると、年間2,885.4万/月額240.5万である。
院長が勤務医時代の800万円の年収をとるなら、年間3,800万円を稼ぐ必要がある。年間3,800万円は、月額316万円・保険点数約32万点である。レセプト1枚あたり1200点で月267人、毎日約12人の患者が必要になる。
しかし、今は患者が集まらないので、開業当初からこれだけ売上げることは難しい。元金均等払いなので年数が経過するにつれて返済額は減少していくが、開業後約5年は苦しい生活になる。


■住宅は成功してから購入する


開業時の借入限度額は住宅ローンとの合計になるため、住宅ローンがあると十分な借入額を確保できない。さらに、開業後に患者が増えず資金繰りに行き詰まると、強いストレス状態に陥り家庭崩壊の危機を招きかねない。このため、「開業して医院経営が軌道に乗ってから、マイホームの購入を考える」ことが鉄則である。


■まとめ


勤務医の賃金が高騰し、入職5年目で1千万円を稼げる歯科医院が増えている。30歳で入職し、定年延長すれば70歳まで、40年間勤務医として生活できる。年収1千万円は上場企業の管理職がもらえる年収である。
開業すれば、約1億円の投資リスクを背負い、CTやマイクロスコープなど最新医療機器への投資や、歯科衛生士、受付助手の確保に悩まされる毎日になる。そして、個人立歯科医院の平均年間医業収益(売上)は、厚労省の令和5年医療経済実態調査では約4,719万円、損益差額(営業利益=院長の年収)は1,238万円である。これは平均値であり、すべての歯科医院が開業後に達成できる数字ではない。しかし、大型法人の勤務医でいれば十分稼げる可能性がある金額である。しかも、卒後研修の受講や学会の認定医や専門医の取得など歯科医療技術を研鑽することもできる。
開業だけが歯科医師人生の成功とはいえないのだ。じっくり考えていただきたい。        

 以上