接遇インストラクター  小山(おやま) 美由紀(みゆき)

今年の夏は猛暑が長く続くようです。歯科医院では夏には特有の注意点があります。猛暑だからこそ、患者さんを爽やかな清潔感でおもてなししましょう。「いつも清潔で気持ちがいい歯医者さん」と患者さんに喜んでいただくために、スタッフ全員で取り組みましょう。

1.におい:
消毒室やトイレ、ブラッシングコーナー、スリッパやタオルなどから嫌な臭いはしていないか、チェックし清掃しましょう。特にトイレは密室でエアコン気が利きにくい場所なので、少しの汚れがすぐに悪臭になります。こまめな掃除と消臭スプレーを利用しましょう。近頃は男女ともに素足にサンダルという方が多くなっています。スリッパを使う医院では、エントランスの靴やスリッパの悪臭に注意しましょう。消臭剤を使いスリッパは除菌剤で拭きましょう。

診療中は、患者さんに接近しますので、スタッフの皆さん自身の体臭をチェックしましょう。ご自分が汗かきの方はもちろん、そうでもない方も、制汗消臭スプレーなどを使って臭う前の予防が大切です。また、汗拭きシートなども爽快で涼しくなる成分が含まれていますので、スタッフルームに用意しておき、出勤したら着替える前にサッとひと拭きするのもおすすめです。

2.身だしなみ:
白衣やエプロンなどのユニフォームがほころびていたり、ボタンが取れかかっていたりしませんか。唾液や血液が飛び、切削の粉も付着しています。見た目の汚れが無いことが一番ですが、毎日洗濯しているかどうかも大切です。「少しくらいならまだ洗濯しなくてもいいや」とあまく考えてしまうと、どんどん緩くなり清潔に鈍感になりがちです。必ず毎日洗濯したものを身につけることが、自分自身も感染症から守られると考えましょう。

染めた髪は強い日差しによる紫外線で痛み、パサパサと艶が無くなり退色しやすいものです。金髪になってしまわぬよう、健康的な艶や色合いに気を配り、毎日清潔にシャンプーしましょう。

また女性スタッフは、暑いからと言って通勤時のままの素足では危険です。ソックスやストッキングをきちんと身につけましょう。シューズの汚れや傷みも要注意です。足元の清潔感が無ければ、すべてを台無しにしてしまいます。

3.涼しさをお届けする機器:
エアコンの吹き出し口や扇風機の羽やカバー、またサーキュレーターのホコリや汚れはありませんか? これらは夏の間、毎日フル回転するものですから、表面のホコリもすぐに付着しますし、エアコン内のフィルターも清掃することで効率アップと節電効果があります。また、レントゲンを映し出すディスプレイ画面やその背面にホコリがあると扇風機の風で舞い上がってしまうこともありますので、毎日こまめに掃除しましょう。

ウォーターサーバーを設置している歯科医院は、周辺のホコリや受け皿に水がたまってドロドロに淀んでいるようなことの無いように毎日清掃しましょう。「お口に入れる飲み物の周りが汚れているなんて・・・、治療の機材は大丈夫なの???」などと疑われては、もったいないですね。

4.チェアサイド:
荷物かごのホコリや汚れ、いたみをチェックします。ひざ掛けは夏らしい涼しげな色や素材に交換しましょう。クーラーの冷気は下にたまりやすいので、スカートの女性や冷えの気になる患者さんには、足もとにかけるものがあると喜ばれます。スタッフ全員で総点検と清掃をして、患者さんにも自分たちにも爽やかで気持ちの良い歯科医院であり続けましょう。

笑顔でかわいらしい応対をしてくれた受付さんの襟まわりが黒く汚れていた、肘の裏側が汚れていた、ユニットに案内してくれた歯科衛生士のエプロンに染めだし液か血液かわからないピンクの染みがついていた、あるいはヘアカラーが黄色で肩まで垂れていた、グローブのなかの爪が伸びていた…。患者さんはどんな感じがするでしょうか。清潔感も大切なのです。

航空会社のCAさんや百貨店や一流ホテルでは、身だしなみにとても気を配っています。お化粧、ヘアカラー、ヘアスタイル、身につけられるアクセサリー、爪の長さなど細かくルールを決めています。これは、だらしないまま放置すると、その航空会社やホテル、百貨店に対する信頼感を壊してしまうからです。逸脱した場合には上司からすぐにその場で注意されます。

もちろん歯科医師も身だしなみが大切です。当社のクライアント医院でこんな例がありました。若い勤務医が、髪を明るい茶色に染め、長めのカットで真ん中分けにして、首には金のネックレス、腕にはゆるいブレスレットをつけ、シャツの襟をゆるくしてネクタイを緩め、そのうえから白衣のボタンを全部止めずにだらんと着て診療をしていたのです。院長は辞められたら困ると考え、一度も注意をしていませんでした。そして、ある日事件が起きました。

中年の男性患者がその歯科医師を見るなり、「お前が俺を見るのかよー」と一言いったのです。そして、「覚えてろよ」と言い捨てて帰ったのです。その患者さんは、ひと眼見て「ダメ歯医者だ」と感じたのでしょう。人は外見で判断されます。信頼感など生まれるわけがありません。

その歯科医師には院長からも私からも厳重に注意をしました。そして、私は院長にも苦言を申し上げました。彼を放置したのは院長だからです。
この医院では「別の先生にしてください」「院長先生でお願いします」という患者さんが大勢いたことが分かりました。この医師の服装によって医院は莫大な損失を生んでいたのです。

身だしなみは、患者さんの疾病を治療する役割を持つ医療機関にとって、とても重要です。
しかし、みだしなみの規則があると採用できないこともあるようです。このため、「規則」ではなく、「髪の色は8番まで」、「髪は必ずまとめておくこと」、「爪は2㎜まで」、「口腔内に落下する危険のあるアクセサリーは着用禁止」など、自主的なルールを話し合って決めておきましょう。

以上