1.はじめに
民間の有識者でつくる「人口戦略会議」が、2024年4月、あらたに消滅可能性都市を公表しました。また、厚生労働省が6月5日に公表した2023年の「人口動態統計」の概数では、「合計特殊出生率」が1.20と過去最低となっていました。男女2人の日本人が1.2人しか子どもを作らないということで、今後の人口減少が加速していく事態となっています。

2.消滅可能性都市の歯科医院でおきる変化とは
では、消滅可能性都市で開業している歯科医院ではどんな変化がおきていくのでしょうか。予想してみましょう。
1)歯科衛生士や受付助手を採用できなくなる
消滅可能性都市が生じるのは出産可能性年齢の女性が急減していくからです。そして、歯科衛生士や受付助手の多くは出産可能性年齢の女性です。つまり、消滅可能性都市とされた地域では、歯科衛生士や受付助手の採用が困難になっていくと予想されます。
2)患者の高齢化と減少が同時進行で起きる 
高齢者にう蝕も歯周病も増加しています。日本歯科総合研究機構によれば、歯科医療は歯科医療費の95%強を歯科診療所で提供しており、歯科診療所へ通院ができなくなる時点で、高齢者の受療機会は失われる可能性が高いとしています。
3)歯科医師も高齢化する
70歳以上の歯科医師数は2020年の11,731人から、2030年には18,146人になります。70歳以上の歯科医師が全て75歳でリタイアすると仮定すれば、5年間で毎年3,629人の歯科医師が退場することになります。現実に、首都圏の複数の歯科医師会で、10年以内で25%の歯科医院が廃業する可能性があると言われています。郡部では新規開業も減少すると予想されます。
4)後継者のいない歯科医院の廃業が進む
(公社)日本医業経営コンサルタント協会の歯科経営指標2022年度歯科診療所経営実態では、後継者なしが73.4%を占め、さらに、70代以上の60.0%、60代の68.6%が後継者なしとしています。歯科医師が75歳でリタイアするとすれば、あと15年ほどで70%の歯科医院が廃業せざるを得ない状態になるという恐るべきデータです。

3.消滅可能性都市の歯科医院はどうなっていくのか
これらの変化の結果、消滅可能性都市では次のような段階を踏んで変化していくのではないかと予想されます。
1.競争力のある歯科医院が残っていく。 ⇒
2.後継者のある歯科医院が残っていく。後継者がいない場合はM&Aや居ぬきでの売却をめざすことになります。 ⇒
3.残った歯科医院が地域の患者を集め大型化していく。歯科医師の高齢化や後継者の不在によって廃業する歯科医院が増え、その医院の患者が次々に集まってきます。 ⇒
4.地域の歯科医療需要を残った医院がカバーしきれなくなる。次第に対応できない事態に陥ると予想されます。 ⇒
5.無歯科医地区が出現しはじめる。地域によっては無歯科医地区が出現するでしょう。

4.まとめ
 消滅可能性都市で進行する少子高齢化に対して歯科診療所が単独で対処できることはほとんどありません。しかし、歯科は地域の住民の生活を支える重要な診療科です。消滅可能性都市とされた地域においては、地区の歯科医師会が中心となってお互いに支え合い、一軒でも多くの歯科医院が生き残り、少しでも長く診療を継続していただけるように努力していただきたいと願います。                                       以上