コンサルタントの視点から:令和4年概算医療費の変化と今後の対応を考える
令和4年度 概算医療費の動向が厚生労働省から発表された。令和4年度の概算医療費は46.0兆円で、総額で前年比1.8兆円もの増加になった。昨年の2.0兆円の増加に続いて大きな増加である。令和元年度までは、1兆円未満の増加だったので、コロナ禍を経て医療費の増大に歯止めがかからなくなった感がある。
診療科別では、内科が元年比で10.4%、前年比7.3%の大きな伸びになった。この要因は、受診抑制行動の反動や、コロナ患者の外来診療での特例加算措置やPCR検査費用、軽症者の急増によって医療費が増加したことなどが考えられる。また、産婦人科の医療費が大きく伸びた。出産に安心感が出たほか、令和4年診療報酬改定で不妊治療が保険収載されたことが要因ではないかと推察される。小児科の医療費も前年比30.7%と伸びた。令和3年度に42.3%と大きく回復したが、「念のため受診」が再開され、コロナ感染での受診やインフルエンザの同時流行が原因ではないかと考えられる。耳鼻咽喉科も回復した。花粉症などの軽症患者が戻ってきたことが考えられる。歯科は、令和4年度は3.23兆円となり図表のように従来のトレンドで伸びたような状態になった。これは、コロナ禍が終わって安定的な受診行動に戻り始めたこと、定期予防管理の定着で安定して来院する傾向が定着したことなどが要因ではないかと推察される。
全体では高齢者の医療費の伸びが大きい。0歳から74歳までの年齢層の1人あたり医療費が24.5万円であるのに対して、75歳以上の高齢者の1人当たり医療費は95.6万円に達している。
医療費の抑制にはいくつかのアプローチが考えられる。
一つは、最近の診療報酬改定でみられるように、歯科の予防に関する処置の強化だろう。歯周病から糖尿病などの成人病の流れを絶ち、将来の入院費などの削減につながると考えられるからである。医科においても、歯科の「重症化予防治療」のような保険適用を検討していく必要があるのではないだろうか。
二つ目は、在宅医療を中心とした体制の整備である。今後は急激に高齢化が進むと予想されており、特に、首都圏、近畿圏、中部圏などの都市圏ではベッド数や介護施設数が圧倒的に不足すると予想されている。高齢者を在宅で支えることで終末期の入院費や介護費の削減につながると考えられる。
三つ目は、終末期医療の見直しである。欧米では寝たきりの高齢者がいないという。高齢者への胃ろうを設定や経管栄養で命を長らえる処置が、キリスト教的な価値観では神に召されるのを妨害する犯罪行為とされるためといわれる。しかし日本人は、家族から「親をできるだけ長く生かしてください」と要請されるケースが多いようだ。内閣府『平成25年版 高齢社会白書』では、65歳以上の高齢者の91.1%が「延命のみを目的とした医療は行わず、自然に任せてほしい」と回答している。高齢者自身の意識が清明なうちに、「認知症で意識が朦朧としながら、寝たきりで褥瘡や喀痰吸引に苦しみながら生き続けるのがよいのか、過剰な医療措置を避け、枯れて自然に逝くことを選ぶのか」を決断し、家族や病院、介護施設に明確に伝えることができるようにする必要があるのではないかと思う。 以上