コンサルタントの視点から:歯科医院のM&Aを考える
1.はじめに
都内のある歯科医師会長からお聞きしたところ、後継者がおらず、10年以内に廃院する可能性のある歯科医院が25%以上とのことであった。また、あるM&A企業の調査によると、歯科医院の53.4%が後継者なしとのことである。このような状況のなかで、医療機関のM&Aを仲介する業者が乱立している。しかし、買手がみつからなかったり、価格が折り合わなかったりして承継が決まらないケースも多いのが現実である。
2.M&Aの売買金額の決めかた
M&Aでは純資産法+年倍法で決められることが多い。医院の資産から借入を差し引いた「純資産」に、過去3年間の平均営業利益を3~5倍して算定する。このとき、過大な役員報酬や節税のための生命保険料などがあれば調整して妥当な営業利益に戻して計算する。さらに、投資金額の利回りを計算して決定する。
3.M&Aの費用や問題点とは
M&A業者に支払う費用は業者によって異なるが、歯科医院の売買価格は大部分が1億円以下なので、各社の最低料金が適用されることが多い。業者によって400万円~1,000万円と大きく異なるので要注意である。例えば5千万円で売却する場合でも手数料が1千万円であれば4千万円しか残らない。
また、どんな歯科医院でも希望どおり承継できるわけではない。一定の経営規模で健全な経営を継続していることが前提になる。そのため、経営上の問題点やリスクの調査が行なわれる。M&Aによる事業承継でおきる主な問題点は次のとおりである。
①借入残高が大きい場合は純資産が少ないので、想定より売却価格が低くなる。
②直前数年間が赤字だった場合は、営業権の評価が低くなるため売却価格が低くなる。
③土地建物を込みで売却する場合、更地の評価額ではないので予想より土地価格が低くなる。
④不法建築であったり、違法増築だったりすると買い取ってもらえないことがある。
⑤残業手当や社会保険料などの未払いなど、労働債権があると買い取ってもらえないことがある。
⑥院長の年齢や設備の状況、患者数の推移などから歯科医院としての魅力がないと買い取ってもらえない。
⑦多くの場合、事業の継続性維持のため、理事長や勤務医は数年間継続して診療をするよう要請を受ける。
⑧売却されると、勤務医や歯科衛生士が退職してしまうことが多い。
4.M&Aを成功させるためには
M&Aを成功させるには早期に着手して計画的に進めることが最重要である。歯科医師の高齢化も進んでいるなかで、前述の通り、あるM&A業者の調査によれば歯科医院の53.4%が後継者なしとのことであり、事業承継をめざすにも激烈な競争が起きるからである。
また、事業承継は5年〜10年かけて取り組む必要があるといわれている。例えば、家族に後継者がいない場合は勤務医への売却が第一選択であるが簡単に進まないことが多い。結婚して住宅ローンを抱えている場合など、借入が増えることに対する警戒感も抱くだろう。後継者として十分な実務経験を積ませ、院長=経営者としての意識を持たせるのは簡単ではない。
しかし、自分で後継者を探そうとしてもすぐには見つけられない。そのため、早い段階で会計事務所や経営コンサルタントなどの専門家に相談することをお勧めする。譲渡価値の試算や解決しておくべき課題の抽出、相続まで見据えた税務面でのアドバイスを受けることも出来るからである。
以上