3月16日に、第115回歯科医師国家試験の合格発表が行なわれた。受験者数3,198人に対して合格者は1969人で、2017年から5年ぶりに2000人を割り込んだほか、合格率は61.6%で過去最低となった。例年より100人以上少ないという結果であるが、歯科医師の高齢化が進み、将来的に減少が見込まれているなかで、これでよいのだろうか。

 図表は、2018年から2020年の歯科医師数の増減を5倍して、2030年の年齢階層別歯科医師数を予測したものである。グラフを見ると、2020年は、60代が23,136人と50代の歯科医師23,769人とほぼ同数であったが、2030年には27,381人になり最大の年齢層となる。さらに、70歳以上の歯科医師数は2020年の11,731人から2030年には18,146人になる。そして総数は、100,168人となり、2020年から△3,950人減少する。70歳以上の歯科医師の18,146人が75歳でリタイアすると仮定すれば、5年間で毎年3,629人の歯科医師が退場することになる。国家試験合格者数は毎年約2,000人という状況が続いており、歯科医師数の減少局面に入っている可能性があるのだ。 

 片方で、訪問歯科の需要は急激に増大している。しかし、要介護者の訪問歯科の受療率は低く、平成24年~25年の「医科歯科・介護突合レセプト分析による居宅/ 施設別要介護者の訪問歯科受療状況の検討」によれば、わが国の要介護者の歯科治療・口腔ケアニーズは約 7 割との報告があるにもかかわらず、施設入居要介護者の歯科医療受療率は 19%と著しく低い。この調査では、後期高齢要介護者に占める訪問歯科診療の受診者割合は、13.6%であった。受療率をせめて50%にしようとすれば、平成24年の3.7倍の訪問歯科を担当する歯科医師が必要になるということである。

 国試合格者のうち、新卒は受験者数1,999人、合格者数1,542人、合格率77.1%で、うち国公立大は受験者数591人、合格者数481人、合格率81.4%、私立大学歯学部は、受験者数1,405人、合格者数1,060人、合格率75.4%であった。私立大学歯学部の合格率は上昇してきたものの、受験者数を絞り込んでいる学校が多い。6年生の60%が国家試験を受けて、合格率が70%であれば、42%しか歯科医師になれないということになる。残りの58%の学生達はどうなるのだろうか。6年間の高度な歯学教育を受けた人材の約6割が歯科医療に携われないというのは、大変なムダではないかと思う。

 例えば、私立大学歯学部に「保険衛生技工学科」をつくり、歯科技工士に加えて歯科衛生士国家試験の受験資格を与えて、歯科医師の補助ができるような職種を作り出せば、在宅歯科の現場で大いに活躍することができるだろう。また、歯科技工士が年間800人しか誕生しない状態となっている。私立大学歯学部に「歯科情報工学科」をつくり、高度化するAIを使った診断補助技術や新たな技工材料の導入などのイノベーションに対応できる、高度な専門知識をもった歯科技工士として活躍できる場を与えることができないものだろうか。そして、このような国試に受からない、受けられない場合のセーフティネットができれば、多くの優秀な人材が私立大学歯学部に集まるのではないだろうか。                                 

以上