変異ウイルスの広がりによって、東京オリンピックもほぼ無観客での開催となった。都内には緊急事態宣言が出され、収束はおろか拡散している状況である。コロナ禍は歯科経営にも大きな影響を与えた。特に令和2年4月から5月にかけて、緊急事態宣言と「歯科は危険」というマスコミ報道によって急激な患者数減少に見舞われた。しかし、6月頃から急激に回復し、弊社のクライアント歯科医院でも、大部分が令和2年度は平成31年度よりも増収になった。今回はこの要因を考察してみよう。

 図表1は、平成29年からの全都道府県の歯科レセプト点数の推移グラフである。令和2年までレセプト点数が低下していたが、令和3年は急増したことがわかる。では、なぜ令和3年度のレセプト平均点が急激に上昇したのだろうか。私は次のような要因があったのではないかと推測している。

①令和2年4月から5月にかけて来院患者が急減したため、月あたりの来院回数が増えて治療が進み、結果的に1枚点数が高くなった可能性がある。

②コロナ感染リスク対する恐怖と、当初、予防歯科を不要不急とした歯科医師会の案内文書などもあって、レセプト平均点の低下に作用する予防治療の患者数が回復せず、痛みなどの急性症状の患者の割合が次第に増えたため、平均点が高くなった可能性がある。

③歯科では令和2年6月から患者数が回復したが、そのままの濃厚な診療体制が続いていた可能性がある。

④新型コロナ感染予防ということで、厚生局による集団的高点指導や高点個別指導が実施されなかったため、①②③による高い点数のレセプトが放置された可能性がある。

 令和3年度の指導監査については、日本医師会、日本歯科医師会から、令和2年度と同様に「集団指導と集団的個別指導は資料の配布や動画配信だけの場合もある。個別指導では、高点個別指導は実施せず、情報提供があった場合と新規指導を優先する」という通達がでている。しかし、いずれコロナ禍も終焉に向かうとみられ、来年以降は高点個別指導が再開され、疑義のある算定を繰り返した歯科医院に対する個別指導も順次実施されるだろう。そのために留意していただきたいのは「不当請求」なのか「不正請求」なのかということである。厚生労働省から毎年発表される「保険医療機関等の指導・監査等の実施状況」によれば次のように定義されている。

「不当請求」:診療報酬の請求のうち、算定要件を満たしていない等、その妥当性を欠くもの。例えば、根管充填でデンタルの添付がなかったというように算定基準を満たしていないケースなどである。 

「不正請求」:診療報酬の請求のうち、詐欺や不法行為に当たるもの。架空請求、付増請求、振替請求、二重請求、その他の請求に区分される。例えば、根管充填をビタペックスで充填したのに加圧根管充填で算定したというようなケースである。この違いを知らずに安易に算定している勤務医が散見される。個人立医院でも高点指導が行われないからといって安易に不当請求に手を染めることのないように院長自ら自分を律し、大型歯科医院では勤務医に対して「不正請求」は絶対に避けるように、厳しく指導しておく必要があるだろう。

以上