コンプライアンスとは法令遵守のことである。歯科医院は医療機関であり、患者に対して診療契約によって最善の治療を行なう義務を負っており、従業員の安全と雇用を守り、法令を遵守させる義務を負っている。ところが、歯科助手に歯石除去を行わせたとして、浜松市にある医療法人の56歳の役員が歯科衛生士法違反の疑いで逮捕された。去年9月ごろから歯科衛生士の資格を持たない助手に少なくとも患者4人の歯石の除去を行わせた疑いが持たれている。事件は警察への匿名の通報で発覚し、勤務医3人と歯科助手5人も3月に書類送検された。

 この事件についてどう感じただろうか。私は、逮捕された理事長と歯科医師3人は仕方ないと思うが、歯科助手3人は哀れに思う。書類送検され罰則が適用されると、戸籍が汚れ結婚にも影響し、その女性達の人生に大きな影響を与えるからである。このような事件に対しては、社会の目が厳しいだけでなく刑事罰が下される。歯科医師は医道審議会にかけられ、免許の剥奪や停止などの処罰を受ける。

 ところが、あまりにも安易にこのような違法行為が行なわれている現実がある。歯科助手のスケーリングだけでなく、多いのはレントゲンのスイッチを歯科衛生士や歯科助手に押させるケースである。これは歯科医師法、放射線技師法違反である。歯科助手に印象採得をさせている歯科医院も多いが、歯科衛生士法違反である。歯科衛生士であっても何でもできるわけではない。浸麻は経験豊富な歯科衛生士に研修を受けさせればさせてもよいが、形成や根管治療をさせれば違法である。また、歯科技工士は患者の口腔内に触れることはできない。歯科技工士がニセ歯科医師として摘発され逮捕された例は過去に数多い。

 絶対的医行為は歯科医師だけに許されている行為であり、安易に歯科衛生士や歯科助手に教える歯科医師がいることが問題の主因である。図表は、歯科助手の業務範囲のイメージである。「歯科助手は何もできない」という声が聞こえてきそうだが、歯科助手が診療の準備や片付けなどの診療補助を行なうことで、歯科医師は自分達の職務に専念することができる。もし歯科医師が自分で、患者の導入、準備や片づけなどの補助業務を行なったら1日に診ることが出来る患者数が減少してしまう。また、歯科衛生士には診療介助を担当させると、SPTⅡなどのP処の収入を上げることが出来ない。歯科衛生士にはP処をさせるほうが圧倒的に利益を生みだせる。歯科助手もありがたい存在なのだ。もし違法行為をさせると、歯科医師はともかく、やらされた人達の人生を狂わせてしまう。高度な倫理観をもって対処していただきたいと思う。                   

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