コンサルタントの視点から:「児童虐待の歯科医院での早期発見を考える」
6月19日に、親による子どもへの体罰を禁じるとともに児童相談所の体制強化を盛り込んだ、改正児童虐待防止法と改正児童福祉法が成立した。2020年4月1日から施行され、親によるしつけとしての体罰が禁じられる。また、虐待をした親の回復支援や、児童相談所と配偶者暴力相談支援センターなどの連携強化も進められることになった。
しかし身体的虐待は全体の3分の1に過ぎず、心理的虐待とネグレクトも増加している。ネグレクトは直接生命の危険がないと感じがちだが、低栄養で放置して子どもを死に至らしめる可能性は否定できない。また、小学生になれば「臭い」などと仲間外れにされ、深刻ないじめの被害にあう可能性もある。幼い時期のコンプレックスは人格形成に大きな影響が残る危険がある。このため早期に対処することが不可欠である。
児童虐待は歯科診療で早期発見できる。児童虐待を受けている子どものむし歯罹患率が一般の子どもにくらべて高いからである。また歯科検診を経年的に診るため、以前の学校検診で指摘されて医療機関受診済となっているにもかかわらず未処置のままのむし歯や、急にむし歯が増加しているなどの状況を把握することができる。さらに、真冬に薄いシャツ1枚など季節に合わない服装や、風呂に入らず洗濯しないことによる頭髪や服装などの臭い、低体重、不自然な怪我や傷、表情や態度などからも、児童虐待が疑われる状態を判断できる。
ところが、歯科医院から児童相談所等への児童虐待についての通報は少ない。図表は福祉事務所などへの児童虐待の通告経路である。最も多いのが近隣知人の27.0%で、家族親戚の17.4%が続くが、医療機関はわずか2.8%に過ぎない。この原因は、虐待の判断に自信が持てないためと考えられる。平成16年の「子ども虐待についての医師の意識調査」では78.1%が「虐待の判断に自信が持てない」と回答しており、92.0%が 児童虐待の初期対応(通告・安全確保)を医師の役割と認識しているものの、63.8%が「専門機関に相談できる体制がないため適切に対応できない」と答えている。しかし、虐待の判断に自信が持てないからと通報を見送るのは児童虐待の共犯に近い。その間にも、その子が虐待され続けている可能性があるからである。
児童虐待防止法によって、疑いがある段階での早期の通報が義務付けられている。さらに通報した者の秘密も守られる。虐待の判断に自信が持てない場合でも、とにかく異常な状態であることを通報しておくことが、その子の命と人生を守ることにつながっていく。虐待かどうかの事実確認は児童相談所の役割であり、だれが通報したかも親に通報されることはない。ぜひ、ためらわずに通報していただきたいと願う。
児童虐待による痛ましい事故や事件はこれからも増えるだろう。少子高齢化のなかで、親に変わって子どもの面倒をみたり、近所同士で困ったときに助け合ったりする風土が希薄になっているからである。将来の国を支える子供たちの命や人生を守ることが、虐待を早期発見できるすべての医療関係者に求められている。その子を診療したり、検診でその子の状態を把握したりした歯科医師は、その子の将来を少しでも明るい方向に導いてやりたいと思うのではないだろうか。通告するのは電話でもFAXでも構わない。 以上