コンサルタントの視点から:「変異型コロナの院内感染に備えよう」
インド型といわれる変異株が猛威を振るい、新型コロナウイルス感染症の感染者数が急増している。政府は東京、埼玉、千葉、神奈川、大阪、沖縄の緊急事態宣言の期限を9月12日まで延長し、茨城、栃木、群馬、静岡、京都、兵庫、福岡を追加、さらに、北海道、宮城、岐阜、愛知、三重、滋賀、岡山、広島の8道県を追加し、高知、佐賀、長崎、宮崎の4県にまん延防止等重点措置の追加適用を決定した。全都道府県に拡大する勢いだが、それだけ感染力が強く危険な疾患であり、医療機関が危機的な状態にあるということだろう。
そのなかで、医療従事者へのワクチン接種は一巡し、歯科医院でも二度目のワクチン接種を終えたようだ。しかし最近は、2回目のワクチン接種終了14日以上経過した後に感染が確認される「ブレークスルー感染」という言葉を耳にするようになった。また、ワクチンを接種した人には抗体ができるため、症状が出ない、あるいは軽いため、感染したことに気付かず、抗体のない人に感染させ発症させるリスクも指摘されている。
実は、地方にある弊社のクライアント医院でこれを実証する院内感染が発生した。2回のワクチン接種を終えていた歯科医師が感染し、さらに感染した歯科医師から患者さんへの二次感染も発生してしまったのだ。原因は、ランチミーティングで食事を取りながら会議をしたことである。全員がワクチン2回接種後二週間以上経過していたのだが、前日にワクチン1回目を接種し、軽く発熱していたスタッフを副反応と考えて参加させた。ところがそのスタッフは2日前に東京に遊びに行き新型コロナに感染していたのだ。そして、ランチミーティング参加者の全員が濃厚接触者となり、診療ができなくなった。さらに、感染したスタッフの両隣で食事をしていた歯科医師が陽性となってしまった。陽性となった歯科医師は、午後から通常通り診療を行ったが、小さなお子さんに対して怖がらせないよう数十秒間マスクを外して問診した。その結果、そのお子さんとお母さんが感染し、ご主人が濃厚接触者となって会社を二週間休業することになり、大きなクレームになってしまった。
この事例を踏まえて、あらためて院内の感染対策を見直していただきたい。具体的には「3密」の回避、マスク着用、手洗いや手指消毒用アルコールによる消毒の励行などこれまでの感染対策に加えて、院内では次の表の院内感染対策のポイントを徹底していただきたい。
【院内感染対策のポイント】 ①昼食をとりながらの会議は行なわない。 ②患者の前では絶対にマスクを外さない。 ③昼食は、個食黙食を守る。 ④ワクチン2回接種のスタッフ同士でもマスクなしで会話しない。 |
また、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は8月24日、ワクチンを接種していない人は、ワクチン接種を完了している人に比べて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で入院する可能性が29倍高いと報告した。ワクチン未接種者は、感染リスクが高いだけでなく、重症化リスクも高いまま放置されているわけである。考えていただきたい。大部分の既接種者に少数の未接種者が混じっている場合、院内感染のリスクが生じてしまう。また未接種者がどこかで感染し、最初の2日間に気づかないまま出勤すると、医師やスタッフの多くが濃厚接触者となり、医院が休診に追い込まれるリスクもゼロではない。さらに、患者さんへの二次感染を起こしてしまう危険もあるのだ。歯科医院は多くの患者さんの診療を継続する社会的責任を負っている。ワクチン接種は自由意志とされているが、それは一般の企業や学校でのことである。ワクチンを接種していない医療従事者は、患者と自分、そして医院と歯科医師や他のスタッフの生活を守るために、早期に接種を終えていただきたい。医院としても、ワクチン未接種者が感染しないように、会議や行事への参加を制限するなどの対策を取る必要があるだろう。
以上