一部のマスコミが「歯科医療は不要不急」と言ったり、「感染リスクが高いから歯科医院には行かないほうがよい」という意見もあるようだ。ここで明確に反論しておきたい。

【1.歯科医療は不要不急ではない】 急患でお痛みの患者さんの治療はもちろん、根管治療の途中で1週間も余計に治療期間が開くと根管への感染リスクが高くなる。歯牙を形成してからセットまで3週間も開けるとかなりの調整が必要になる。歯列矯正でも、毎月のチェックをしなければ狙い通りの結果が得られなくなるだろう。このように、歯科医療は治療計画に基づいて進めており、決して不要不急ではない。

歯科衛生士の処置も同様に不要不急ではない。例えばSPT(歯周病安定期治療)は、重症化予防のための医学管理である。糖尿病や高血圧の医学管理と同じで、放置しておくと糖尿病などを発症する危険があるから定期的に予防管理しているのだ。元国立保健医療科学院 口腔保健部 部長で、鶴見大学教授の花田 信弘 先生も、4月20日NHKのテレビ番組「朝イチ」で、「口腔ケアをすることで、重症化が予防できる。ウイルス感染による肺炎に続いて起きる、免疫力低下による細菌性肺炎のリスクを低下させることができる」と話されていた。

【2.歯科医院の患者への感染リスクは高くない】 歯科医院では、新型コロナウイルスウイルス感染対策に関わらず、以前から患者ごとの器具の交換、滅菌、ディスポーザブルの器具の使用などを行ってきた。か強診や外来環を算定する医院では口腔外バキュームを常備している。グローブも患者毎に交換し、マスク、ゴーグルを着用して処置を行なっている。問診の際も歯科医師はマスクを着用しており、術者の唾液が患者の口腔内に飛ぶ可能性は少ない。

待合室での感染リスクも高くない。内科や総合科は感染リスクの高い患者が来院する診療所である。どこも混雑しており、待合室で30分ぐらい待たされることが多く、患者同士の感染リスクが否定できないだろう。しかし、歯科医院はもともと体調が優れない患者が集まる医療機関ではない。ほとんどの患者さんは体調が悪いと予約変更をされて来院されない。さらに、歯科医院の多くは予約制である。待合室は混雑しないし10分も待たせることは少ない。また、多くの歯科医院では待合室に空気清浄機を稼働させたり、窓を開けたりしており密室状態ではない。狭い待合室で大勢の患者が密集したり、密着して座ったりする医院は少なく、感染リスクは決して高くないのだ。

【3.患者から医療スタッフへの感染確率も高くない】 感染した患者が来院する確率を考えてみよう。急患で飛び込んでくるのはう蝕の患者が多い。厚生労働省の患者調査によれば、う蝕の受療率は人口10万対219人。そして、日本の感染者数は約1万1千人である。マスコミが言うようにその10倍の潜在感染者がいると仮定しても10万1千人で、う蝕で来院する患者数は221人ということになる。これに対して歯科医院は2020年1月現在で約68,300軒ある。つまり、潜在感染者が来院する確率は221人÷68,300軒=0.32%になる。そして、平成29年の患者調査では歯科医院の患者の45.2%が65歳以上である。この年齢層は、COVD-19に罹患すると自覚症状がでてアポイント変更をするだろう。自覚症状のない患者が多い15歳~44歳の年齢層は20.4%である。この年齢層の潜在感染者が来院する確率は0.06%ということになる。そして、もし来院しても、受付で検温しており、歯科医師、スタッフともマスク、グローブ、ゴーグルでしっかりガードしている。潜在患者から感染する可能性は低いだろう。

この点が、だれもが買い物に立ち寄り、店員がマスクだけの無防備状態で接客しているコンビニやスーパーと、歯科治療を受ける患者だけが来院し、医療スタッフが完全防備で対処する歯科医院との感染リスクの違いである。感染リスクを軽視してはいけないが、必要以上に怖れず、冷静に診療を進めていただきたい。  そして「コロナウイルスに感染しても、重症化を予防できる数少ない手段の一つが、歯科医院での口腔ケアと毎日のきちんとした歯みがきである。それは、口腔内の常在細菌を減少させ、細菌性肺炎のリスクを低下させるからである」ということを、患者さんにしっかりと伝えていただきたい。

以上