コンサルタントの視点から:「歯科医師国試の結果を考える」
3月16日に第113回 歯科医師国家試験の合格発表があり、受験者数3211人、合格者数2107人、合格率65.6%であった。合格された皆様に心からお祝いを申し上げたい。
新卒の国家試験合格率をみると、北海道大学歯学部と東北大学歯学部、東京医科歯科大学の3校が90%以上で、国公立歯学部の合格率は全体で85.5%であった。国公立大学歯学部に入れればまず歯科医師になれるという水準だろう。
今回は、私立大学歯学部の合格率も平均76.7%と高かった。岩手医大、東京歯科大、朝日大歯学部が合格率90%以上、80%台が、北海道医療、明海大、日大松戸、昭和大、松本歯科大、大阪歯科大であった。ただし、私立大学歯学部の受験者数をみると、かなりの絞り込みが行なわれていることが分る。
次の図表は、昨年の歯科国試のデータから、私立大学歯学部の6年次生総数に対する国試突破者の比率を推計したものである(今年のデータはまだ公開されない)。30%台が6校、40%台が7校ある。実に私立歯学部17校のうち13校で、半数以上の学生が6年間歯学部に在籍しても卒業すらできないのだ。
国試合格率の低さが私立大学歯学部に対する入学者の減少を生み、それが入学者の学力レベルや知的レベルの低下につながるという悪循環が起きているとみられる。このままでは合格率低位の私立歯学部が経営破綻する可能性もある。
片方で歯科医師の高齢化が進み、さらに、在宅歯科医療の分野で歯科医師が不足している。もちろん、学力の劣る学生を歯科医師国家試験に合格させるわけにはいかない。しかし、国試の受験機会すら与えられない成績下位の学生たちが、学生生活の早い段階で見切りをつけ、歯科医療に携わる別の方向性を選択できるシステムを構築できないものだろうか。
例えば4年制の「歯科情報工学科」を歯学部に設置して新しい材料工学の知識をもった歯科技工士を養成する、あるいは歯科衛生領域の専門教育を行う4年制の「保健衛生技工学科」を設置するなどである。本人の成績と意向を確認して学生3年次で転部させ、最短4年で卒業させる。もちろん、5年次、6年次から転向させてもよい。そして、歯科衛生士と歯科技工士の国試の受験資格を与えるのだ。そうすれば、歯科医師の指導のもとで、在宅現場で義歯調整と口腔ケアを同時に実施できる。人材不足に悩む歯科技工業界や在宅歯科医療の分野で大きなプラスになるのではないだろうか。
毎度のことであるが、国試の季節を迎えるたびに、歯科医師をめざす若者達の人生と親御さんたちの経済的・精神的な負担、そして歯科医療の未来を思う。
以上